
この素材は、長年の研究と技術と努力により生まれた特殊な合金です。
金色素材の配合として、あえて似ているものを探すとすれば、市販されている日本工業規格の「アルミニウム青銅」(Cu-Al-Ni-Fe-Mnの5元系)がもっとも近い配合の合金になります。
アルミニウム青銅は、強度、特に耐力と硬さが高く、耐食性・耐海水性・耐腐食疲労性・耐摩耗性など、機械的・科学的性質が真ちゅう(黄銅)に比べて優れた特性を持っています。
そのため、化学工業部品、船舶部品、機械部品等に多く使用されていますが、精密鋳造等の鋳物には向かず、また伸銅品ではあるものの、一般的に展伸加工材としての用途は多くありません。
アルミニウム青銅は、金色を放つ合金なのですが、2~3ヶ月のうちに変色が始まり、部分的には黒くなってきます。そして1年も経つころには最初の輝きは完全に失われます。この色調の変化を抑えるべく開発したのが、印鑑に使用されている金色合金なのです。
成分の分析をしますと、この素材の構成要素を知ることができます。ただし、検出しようとして検査をしないと通常の検査では出てこない成分が含まれております。
また、実際に製造をしてみるとわかりますが、分析された配合で溶かしてもうまくできません。どの元素を、どの順番でどのように混ぜるかがとても重要です。
これに関しては、かなりの回数の試験を繰り返してできあがった製品ですので、すぐには製造できません。
ちなみに、特許に関しては構成成分の範囲で提出しております。

写真は、素材の試験に使用した溶解炉です。
金色の合金を製造するときには1,250℃ですが、高温でなければ溶けない金属を混ぜる実験のために1,450℃まで温度を上げることもあります。
そのため、ヒーターはシリコンカーボン素材のものを使用し、温度を測定する熱電対(センサー)もR型という、プラチナ線のものを使用しています。
1回の溶解では、だいたい6~7kgの合金を作ります。可傾式のため、注湯するときには炉をチェーンブロックで吊り上げて作業します。
配合比率、温度管理等、様々な実験を行い、失敗を重ねながら完成したのが、高級印鑑に使われている金色素材です。
腐食には色々な形態がありますが、一番単純な腐食は、素材の厚みが次第に減っていくことです。それは、金属が環境の作用で化学的に浸食される現象です。
腐食は、一般的に水の存在や温度が高いことによって起こります。(湿食と乾食)
乾食の代表的な例は、空気中で起こる「酸化」ですが、酸素との反応による酸化被膜はとても薄いので乾食という点では全く問題になりません。
湿食の場合、常温付近では、酸素や酸は金属として直接化学反応を起こすことは無く、必ず電気化学的な反応過程を経由します。電気化学的な反応にはイオンの存在を必要とし、イオンが存在する為の媒体として水が必要になります。
私たちの身のまわりにある水は空気にさらされていますので、空気中の窒素や酸素が溶け込んでいる(溶存酸素)、水(湿分)や酸素による腐食反応の結果、腐食生成物(化合物)の皮膜が金属の表面にできるのです。
この皮膜がそれ以後の腐食反応を阻害するとき、腐食はずっと遅くなります。
このように金属の表面に酸素や水(湿分)などの反応しやすい気体か液体が触れて、表面に酸化物か水酸化物の酸化被膜が形成されますが、この被膜が時間と共に厚くなってくるにつれて、金属光沢も失われていきます。
そのような理由で、金属の光沢を保持するためには、この被膜を抑制する必要があります。
ちなみに、なぜステンレスは錆びにくいのかというと、一般用ステンレスは鉄、クロム、ニッケルの合金で、アルミニウム、クロム、ニッケル、チタン、モリブデンと同じように、金属の表面に不動態皮膜と呼ばれる特殊な皮膜を形成します。
この皮膜は、一種の酸化物で、薄く透明で目に見えません。
銅や銅合金の防食皮膜(酸化皮膜)は腐食生成物で、やや時間をかけて生成されますが、これに対して不動態皮膜は環境に触れて瞬間に出来てしまいます。
大気中での腐食は、表面に付着する水と空気中の酸素によって起こります。 大気中にある金属への水の供給は、降雨、結露、及び湿分の凝縮によって行われます。屋内での腐食における水分の供給は、ほとんど湿分の凝縮によるものです。
この湿分の凝縮と酸素の反応が、金色合金に与える影響を試験した結果として、酸化皮膜の形成はあるものの、その成長は抑制され黄金色の色調を阻害することなく、いつまでもその色調を保持出来ることが確認されました。
金色合金は、水道水、海水、炭酸ソーダ、石灰水には腐食を起こさず全ての使用条件下で使用することができます。また、人の手に触れることから人工汗浸漬試験を行い、色調に変化の無いことも確認いたしました。
印鑑の製作は、最初は木型で作って鋳造を行いました。
しかし、製品の中心部分に気泡が入ってしまい、印鑑としての製品化は不可能と思われました。直径で1ミリに満たないような気泡が入っても、研磨をしてみると、側面・上面等に「目立つキズ」となって現れます。
気泡をなくすことが最大の課題でした。
「ス」と言われる気泡は、鋳造のときに発生するガスによって起こり、型に流し込むときにうまく処理をしないと製品の中に入ったままになってしまいます。
そのため、1,250℃で鋳造するときの溶けた金色合金の湯の流れをコンピュータでシミュレートしたり、金型鋳造や押し出し等の製造方法を研究し、現在に至っております。
一長一短で簡単に作ることのできない、非常にレアな印鑑だと言えるのは、上記の理由によります。
銅合金と聞くと「青い錆びが発生するのではないか?」とよく聞かれますが、錆びない銅合金というもので身近なものに、50円玉や100円玉があります。硬貨をステンレスと間違えている方もいらっしゃるようです。
錆びない銅合金の硬貨
| 50円硬貨 | 白銅 (銅75%、ニッケル25%) |
| 100円硬貨 | 同上 |
| 500円硬貨 | ニッケル黄銅 (銅72%、亜鉛20%、ニッケル8%) |
錆びの発生する硬貨
| 5円硬貨 | 黄銅(真鍮 銅60~70%、残 亜鉛) |
| 10円硬貨 | 青銅(銅95%、残 亜鉛、スズ) |
そして、弊社の高級印鑑の金色素材は、
| 金色合金 | 銅92~95% アルミニウム3~6%、残ニッケル等 |
となっています。
ブリネル式硬さ試験 52HB (10/500)
約8.5 (象牙は約1.8なので、およそ4.7倍の重さ)
融点 約1,100℃ 溶解温度 約1,250℃
板厚2.1m/m、幅25m/mの試験片による引張り試験
引張り強さ 893N/mm2 伸び 6%
引張り強さ 463N/mm2 伸び 49%(焼鈍時)
調整菌液0.5mlを試験片に滴下し、ガンマー線ポリエチレン製フィルムをのせて、菌液と検査品を密着し、25℃で24時間保存した後、10mlのSCDLP培地で菌液を十分回収し、試験原液とし、標準寒天平板希釈法により35℃48時間培養後、出現する生菌数を測定したところ、生存する菌はゼロであった。
(使用菌:Escherichia.coil IFO 3972,Staphylococcus.aureus IFO 12732)
JIS Z2911によるかび抵抗性試験方法では、調整菌液0.5mlを試験片に滴下し、25℃で4週間保存した後、出現する菌数を測定したところ、菌糸の発育は認められなかった。(試験菌:アスペルギルスニゲル、ペニシリウムシトリナム、クラドスポリウムクラドスポリイデス、ケトミウムグロボスム)
水1リットル中に塩化ナトリウム10g、乳酸1ml、尿素1.5gを溶解し、この液にアンモニア水0.2mlを加えた液中に24時間、試料を浸漬して行った試験では、曇りの変色はみられず、金属光沢を保持し続けた。
試験片を鏡面仕上げ後、容器に入れ、試験片の半分まで水道水を満たし、そのまま室内に6か月間置いた試験では、銅や真鍮では表面が黒ずみ、銅においては青錆の発生がみられたが、本製品においては変色はみられず、錆の発生も無く、金属光沢を保持し続けた。なお、蒸発した分の水道水は適宜補充した。